台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

ラムシチュー

肉の中で一番好きなのが羊だ。

子供の頃はよくジンギスカンが食卓にのぼった。当時は羊といえばプレスした冷凍のマトンで、これを溶かして野菜と焼く。近頃ヘルシーだというのでジンギスカンの店も増えたが、我が家にはその頃からジンギスカン鍋があったのだ。

羊は臭いがあるから嫌いという人も多いようだが、子供のころから臭いなどと思ったこともなかったし、むしろ好きな献立のひとつだった。安くてボリュームがあったので、育ち盛りの子供の胃袋を満たすには都合のいいメニューだったのだと思う。


ラムは永久門歯が生える前の1歳未満の羊だが、ラムチョップなど以前はさほどポピュラーではなく、スーパーでよく半額などで買ったものだ。

こちらは塩コショウでパッと焼いただけで幸せな食事となったが、ちかごろは高くなったし、またフレッシュラムなども売られるようになった。イタシカユシである。


今でも家族は羊好きで、実家に帰ると骨が何本も並んでいるブロックのラムを、大型のオーブンで焼いてのち、骨と骨の間で切り分けて食べる。タラゴンなどのスパイスをすり込んで、外はかりっと、中はピンク色に焼くのがコツだ。


スーパーで安売りしているのが煮込み用のラムだ。見つけたら賞味期限がせまっていてもかまわず買って、冷凍庫にでも放り込んでおこう。
もちろんすぐに調理してもいいが、私は酔っ払っていい気分で帰宅すると、深夜に突然料理したくなるヘキがあるのだ。シチューといっても難しいことではない。それが証拠に酔っ払いでも作れる。


玉ねぎとにんじんを、みじん切りのにんにく一片と共に炒める。別に塩コショウをして炒めたラムを投入。ワインを入れて、トマト缶をひと缶。ブイヨン、ローリエの葉を一枚。チリペッパーを好みで。他には、少しカレー粉など入れてもいい。クミンやガラムマサラなど、カレーにしか出番がなく所在なさげに並んでいるスパイスを隠し味ていどに加えてもいいし、トマトケチャップやしょうゆなど、少しずつ入れてもいい。
この頃には酔いもまわってくるので、私は例の保温鍋の中へ入れて寝てしまう。
翌日には肉も野菜も柔らかくなっているので、味を調えてできあがり。


シチューの素やルーなど、数え切れないほど売られているが、私はどうも苦手だ。食べたあとゲップが止まらなくなるしあと味も悪い。

トマト缶と、台所にある調味料で出来る酔っ払いシチュー。ワインを開けるとまた酔っ払ってバンザイ、である。

(2007.5.25)



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