台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

春巻き

先週は、2月だというのに、20度まで気温があがった。
翌日には、雪でも降りそうな冷たい雨が降った。

気温の変化が激しくなると、なんとなく春が近いような気がする。

ここのところ出費がかさんで、しばらくは、また貧しい生活を続けなければならなくなりそうだ。

いつも後になって反省するのだが、少しのお金の余裕ができると、これをどう使おうかと、かえって落ち着かなくなってしまう。
日頃、余裕ができたら買いたい物がたまっているので、日用品やら、調味料やら、めずらしい食材やら、ここぞとばかりに買っていくうちに、いつのまにやらお金は底をついてしまうのだ。
この性格を変えないうちは、一生貧乏でいると思うこの頃である。

反省しつつも、腹はへるので冷蔵庫を開けてみる。
一時のバブリー生活のなごりの食材が、それでも少しずつは残っていた! ニンジンのカケラ。
玉ねぎが半分、チーズ、しいたけとネギ少々、卵、それに春巻きの皮、そのうえビーフンもある。

私は仕事から帰宅するのが深夜なのだが、寝る前とわかっていながら、少しなにか食べたくなるときがある。
コンビニに寄って、その「少しなにか」を探してみることもある。

しかし、深夜のコンビニをハシゴしたあげく、なかなか、その気分にぴったりくるものに出会えずに、トボトボと家路についたりすることもあるのが事実だ。

あるいは、これが求めていたものだ! という物に巡り会ったとしても、翌朝になると、「なーんだ、こんなもの」と思うこともある。
カップラーメンや、インスタント味噌汁の残骸を、翌朝発見したりすると、昨日の自分が信じられなくなることもある。

最近は、餃子の皮かワンタンの皮を購入しておくことにしている。
小鍋に湯をわかし、中華スープの素をいれ、そこに餃子の皮を落としていく。
醤油を少々たらし込めば、即席ワンタンスープのできあがり。
とき卵を流し込んでもいい。
あればネギなどを散らせば、立派な一品だ。
好みでゴマ油をたらしてもいいし、玉ねぎなど一緒に煮てもいい。
バリエーションは無限大である。
腹ぐあいによって、餃子の皮の枚数を加減すればよいだろう。

今、冷蔵庫にある春巻きの皮は、いつも餃子の皮ではつまらないので、気が向いて購入していたものだ。
しかし、スープにすると、ぐずぐずに溶けておまけに粉っぽいという、ひどい結果になってしまったので、そのままになっていたのだ。

華やかなバブル期が過ぎ去った今、いよいよこの春巻きの皮が、脚光をあびるときが来た。

まず、ビーフンを5分ほど、熱湯につけておく。
戻しすぎるとバラバラにちぎれてしまうので、時間に注意しながら、この間に薄焼き卵をつくる。
薄焼き卵をうまくつくるのは、けっこう難しいものだが、ここではそれほど神経質にならなくてもよろしい。
めんどうなら、具を炒めるときに溶き入れるだけでもよい。
薄焼き卵は細切りにしておく。

フライパンで、玉ねぎ、ニンジンなど、冷蔵庫にあるものを炒めていく。
春菊なども、おいしく出来るだろう。
塩コショウと、中華スープの素を振り入れて、先の薄焼き卵とビーフンを混ぜて火を止めたら、最後にチーズを入れる。
チーズはプロセスチーズを刻んだものでもよいし、ピザ用の溶けるチーズでもよい。
私は、パルメザンを固まりで買っていたので、これを荒くおろして混ぜる。

これを、春巻きの皮で包んで、水溶き片栗粉で閉じていく。
油で揚げれば、残り物でつくったとは思えないほどのゴージャスなおいしさだ。
チーズの味が、なんともいえないコクをかもし出している。

スープにしたときは、あんなにひどかった春巻きの皮が、揚げるとこんなに香ばしくなるのは不思議だ。
やはり、用途にあった使い方というものがあるのだなあと、中国4千年の歴史に感服したりする。

春巻きの皮は、残ったら、細切りにして揚げておこう。
サラダや酢の物のトッピングにすると、カリカリと楽しい。
もっともこの春巻き、揚げる前に、半分は冷凍しておいた。
貧乏人は、次に来る不況期のことを、甘く考えてはいけない。



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