台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

タイラーメン

先日作ったタイカレーが、タイ料理に拍車をかけてしまったようだ。

タイの味の特徴はなんだろう。
辛くて、甘くて、酸っぱくて、その混然とした集合体を楽しむものである。

もちろん、辛くないスープや焼きめしなどもあるが、私のように、普段から、なんでもかんでも辛くしてしまうものには、少し物足りなくなってしまって、結局は唐辛子を多用してしまう結果になる。

辛さが苦手な人は多いようである。
実家のカレー屋を手伝っていると、たまに、「辛くないカレーはどれですか」と聞いてくる客もいる。
私はその度に、「辛くないカレーはありません!」と答えたいのを我慢したりする。
しかし、先に書いたように、インドにも辛くないカレーもあることがわかってからは、あまり過激な発言はひかえるようにしている。

タイやインド以外にも、唐辛子を使った料理を食している国は、世界中にある。
中国、韓国、スペイン、イタリア、メキシコ、ハンガリー・・・。
もちろん、唐辛子の種類も多種にわたっている。

日本の家庭に唐辛子が導入されたのは近年のように思えるが、日本伝来は、意外と早かったようだ。
一説によると、豊臣秀吉の朝鮮出兵の頃らしい。
九州地方などにはもっと以前に伝わっていたともされるが、辛子明太子などが出来た由ありげな話でもある。

私にも、少し前までは、家族で焼き肉屋に行くとき、こっそり持参したトウバンジャンをタレに加えたり、パスタに多量のタバスコをかけて好奇の目で見られたりした不幸な時代もあった。

しかし、最近はカプサイシンなる言葉も日常的に使われることとなり、辛味愛好家にも、やっと胸をはっておてんとう様の下を歩くことが出来る日が来たのだ。
今こそ、この刺激をこころゆくまで味わい、その快楽を普及させようではないか!
夏の暑いときには皮膚表面温度を下げ、冬の寒いときには体をポカポカと暖め、今の梅雨のうっとうしさを爽やかに吹き飛ばし、元気のないときには体を目覚めさせ、二日酔いのときには食欲を増し、栄養分の吸収も高まる。
おまけにエネルギー消費を促進し、ダイエットにも有効(らしい)。
まさに完全食品ではないか。

とはいえ、日頃あまり辛い物を口にしない人に、いきなり激辛のものを強要しても、逆効果というものである。
胃を悪くする危険性もある。
唐辛子普及委員会としては、無理な勧誘を禁じたい。
あくまでも、個々の、異なった味覚を尊重する団体なのだ。

ここは、タイにならって、食卓で好みの味つけをしてもらうことにしよう。

卓上に用意するものは、ナンプラー、砂糖、一味唐辛子、ニンニクを刻んで揚げたもの、唐辛子を刻んで酢に漬けたもの。

ラーメンの作り方は、簡単なものである。
ビーフンは戻した後、茹でる。
もやしがあれば、一緒に茹でる。
スープは、トリガラスープの素に、ナンプラーとコショウで味をつけるだけ。
食卓で味をつけることを考えて、薄味でよろしい。
具は何でもいいだろう。
焼き豚やさつま揚げがあれば加える。
万能ネギやパクチーでもいいだろう。

卓上にて、各々好みの味に調味して食せば、万歳である。
やれ、酢が足りないだの、砂糖を入れすぎたの、辛さをもう少しだの、いろいろと騒ぎながらの食事も楽しい。

ビーフンがないときには、うどんでも、そうめんでも、中華麺でもおいしいものだ。

このラーメン、汁をカットして材料を炒めると、焼きビーフンとなる。
では、このビーフンをご飯に変えてみようか。
なんとタイ風焼きめし、カオパッという一品に変身するのである。
もちろん卓上調味料は同じ。
レモンを絞ってもよい。

要するにタイ料理とは、難しく考えるものではなく、普段醤油を使うところをナンプラーに変え、ニンニク、唐辛子、砂糖、酢、パクチーを濫用すれば、それなりにタイの味になるものである。
野菜炒めなどにも、大いに応用してもらいたい。

最後に断っておくが、私は本場のタイの味を知らない。
是非ともタイを訪れる機会をつくり、続編を書きたいものである。



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