台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

ロールキャベツとパスタソース

私は3人姉妹の末っ子として育った。
教師だった父は、毎夕6時には帰宅していた。
母は、7時から9時まで自宅で英語の塾をやっていた。
夕食が始まるのが7時前。
母だけが、あわただしく食事をして隣の部屋にゆく。
塾生の集まっている部屋だ。
途中、10分間の休憩がある。
その間に、食卓に戻ってきて食事をする。
父と娘たちは、そうしている間、それこそ2時間以上かけて食事をするのだ。

そもそも不思議な話だが、我が家では「食事が出来た」時点で、テーブルの上にはお皿がそれぞれ数枚ずつ並んでいるだけだった。
料理は、台所の鍋の中に出来ていた。
ことによると、下ごしらえがしてあって、食べる前に一瞬焼けばいい、という状態にあった。

一品食べ終わっては、つぎの料理を出す、という工程を経て、最後にご飯を茶漬けで食べた。
今で言うフルコースである。
その頃に、やっと母が戻ってくる。
そんな夕飯だった。

一人で暮らし始めて12年になった今、食事をとる時間は、長くても20分ほどだ。
時間もマチマチ。
私の食事時間は、基本的に「お腹がすいた」と感じたときである。
ずいぶん変わったものだ。

一人暮しを始めた頃、まずぶつかった問題は、「1人分」という分量だった。
つい、5人家族分を作ってしまうのだ。
買い物も然りで、つい、お買い得の大きいパックを買ってしまう。
お陰でずいぶん食べ物を腐らせたものだ。

そのうち、「少量パック」を買う知恵もついた。
必要以上に買い込むこともなくなった。
冷蔵庫の容量も、やっと把握できた。

ところが、いつもチマチマと一人前の料理をつくっていると、たまには、ドカーン! と大人数の食事をつくりたいと思うのが、子供時代の習慣の恐ろしいところである。

過去には、大食いの彼が、我が家にころがりこんでいたこともあるし、なにかと口実をもうけては、ホームパーティと称して友達を集めていたこともある。
ところが、そうした機会をつくることは、料理をするのとは全く別のエネルギーが必要なものである。

だんだんそうしたエネルギーが、消耗していったせいか、いつも、作る量は1人分だ。

今日は、久しぶりにドカーンと食材と取り組んでみたくなった。
つくりおけるものを、調理することにした。

といっても、私が買ってきたものは、鳥の挽き肉。
以上である。
先日、母から荷物が届いた。
私が副業としている織物のための糸と一緒に、なぜかキャベツが一個入っていた。
東京では今年、野菜、特にキャベツが高いのだ。
しかも、私はキャベツを丸ごと買うことは少ない。
だいたい、半分に切ってあるものを買う。
丸ごとのキャベツを前に、当然のようにロールキャベツを思いついたのである。

まず、玉ねぎ一個をミジンにする。
ロールキャベツ用には、3分の1でいいだろう。
あとは、パスタソースに使うことにする。

キャベツは、外側の大きな葉を5、6枚。
電子レンジにかけておく。

挽き肉は粘りが出るまでこね、卵を混ぜる。
玉ねぎと、牛乳に浸したパン粉、塩コショウも混ぜる。
今日は鳥の挽き肉なので、しょうがの絞り汁も少し入れた。
これをキャベツで包む。
なんだか、料理は工作に似ているような気がする。
本当は、これをかんぴょうでしばったり、タコ糸でしばったりするらしい。
その場合は、裁縫の様相を呈してくるのだろう。
鍋に並べてみると、ちょうどスキ間なくおさまったので、しばる工程は省略することにした。

続いてパスタソースをつくる。
ニンニク、しょうがをミジンにする。
先ほど残しておいた玉ねぎ。
アンチョビは、数年前に姉が作ったものを、ゆずりうけたものがある。
自家製だけに、市販のものよりもしょっぱくなくて、しかも数年たっているのに、まだ生の魚っぽくて、不思議だ。

これを、順に炒めていく。
赤ワインを少々。
これは、以前298円で買ったものだ。
最近は安くてもおいしいワインがたくさん出回っているが、さすがにこれは、すぐに料理用になってしまった。

100円のときに買い置いていたトマト缶。
コンソメの素と、塩コショウで味付けしておしまい。
まったくなんのヒネリもなくて、申し訳ないほどだ。

ただ、これは冷蔵庫に入れておけば、一週間や10日は保存できる。
いざ温める時、ベーコンがあればベーコン、海老があれば海老、いやいや、休日ならば、さらにニンニクやタカの爪をたっぷり入れるなど、思いつくままにいろいろなパスタソースに応用できるのだ。
パスタをゆでる途中の鍋に、アスパラガスやブロッコリーを一緒にゆでて入れれば、一皿で野菜もとれる一品となる、まことに便利なソースなのである。
それでも飽きてしまったら、冷凍庫に放り込んでしまえばよい。

さて、今日はロールキャベツの鍋に少しとって、一緒に煮込んでしまう。
あとは冷蔵庫行きだ。

先日、スペイン料理屋でいただいたフランスパンが、冷凍庫に保存してある。
私は、パンを買ったらすぐに冷凍庫にいれてしまう。
フランスパンの場合、焼くときに少し水を振りかけると、パリッと焼ける。
このパンと、ロールキャベツで、今日の夕飯は出来上がり。

今日は、ロールキャベツとパスタソースの二品をつくるつもりだったが、実はロールキャベツの中身が少し余ってしまった。
これは団子にして、油で揚げておいた。
明日の昼食の、汁ビーフンの具にするつもりなのである。

このおまけのもう一品は、もし子供がいれば、お弁当のおかずにするところなのであるが、そう言えないところがツライ。
そういえば、明日は私の32歳の誕生日だった。



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