台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

牛すじ煮

夏が来た。
歌の店もお盆休み。久しぶりにゆっくりとひきこもりのシアワセを満喫できそうだ。
こんな日は、長時間かかる料理でも作ってみようか。

近頃は何でもかんでも「スピードクッキング」で、世間はよほど忙しいと見える。
そうかと思うと「スローライフ」などという言葉も出てきたりして、何が何だかよくわからない。

私は鍵っ子だった(こんな言葉もナツカシイ)。
夕方母は食材を買って帰宅。
当時母は自宅で英語塾をやっていたので、それまでに夕食を作るわけだが、それこそあっ・・・という間に食材が料理に変貌する様を目の当たりにして、「魔法のようだ」と思ったものだ。
「奥さまは魔女」とオーバーラップして、母はサマンサに違いないと確信したものだった。

母曰く、結局料理というものは「段取り」なんだそうだ。

今でも母は、豆好きな父の為にいつも煮豆を炊いている。
これだって戻す時間を除けば、炊く時間はごくわずかだ。火をとめて、ホッタラカシておけば味がしみ込んでいく。

岡山は祭り寿司が有名。いわゆるバラ寿司だ。
母は普段からちょこちょこと下ごしらえをしておく。
干ししいたけを茹でておく、野菜は小さく切って味をつけて炊いておく。イカもアナゴも下ごしらえをしておく。これらを冷凍しておくと、いざ祭り寿司をつくる時になっても、たいした手間はかからない。

料理の極意は、さっと茹でるもの、さっと炒めるものと、また、じっくり煮たり、時間を置いたりするものと、そのメリハリを制することに尽きる。

・・・などと思いながらスーパーに行くと、牛すじがあった。
たいてい午前中になくなってしまうのにツイている。
さっそく茹でる。はじめ浮いてくるアクはとってシャトルシェフへ。そのまま2時間でも半日でもほったらかしにすればよいだろう。
これを一口大に切って鍋に戻したら、ニンジン・コンニャク・昆布・生姜など入れて更に煮る。味付けは酒と砂糖少々、それに味噌を溶き入れたらそのままホッタラカして一晩。

翌日、適当に煮詰めるつもりで火を入れれば、コラーゲンたっぷりの牛すじ煮の出来上がり。
時間にまかせたメニューの典型だ。

シャトルシェフについては次回に書きたいと思う。


2006.8.13



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