台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

Ça va bien?

Ça va?
近所のスーパーに行ったら特売品で鯖が山済みになっていた。瀬戸内の生まれのせいか、頭のついている姿にヨワイ。一匹買う。198円也。

一人暮らしにとって、魚一匹買ってさばく機会はあまりない。

故郷では、魚はその日食べるものをその都度買う。スーパーでも、「地元の海で」なおかつ「今日とれた」ものを買う。
輸送技術が進んでいるとしてもそこは譲れない信仰で、鮮度こそが魚介類には命であると断言する。

その信仰があるせいで、東京暮らしの私の魚事情は、魚に目がないわりに貧弱とならざるを得ない。
せいぜい朝ごはん用に、アジの干物、ししゃも、メザシ、鮭の切り身などの冷凍できる半加工品を買うくらいだ。

もうひとつは、当然のことながら関東の魚に馴染みがないということもある。
マグロなどはおいしいと思ったことがないし、スーパーで刺身のパックになっている魚などはほとんど買ったことがない。魚は「顔が命」。どんな顔をしているのか、どんな目をしているのか見ないと食指が動かないのである。

さて、今日出会った鯖だ。丸々ふとっているし目付きもいい。休日ということもある。久しぶりに魚をさばいて様々調理してみよう。

鯖なら調理法はいろいろある。醤油で炊く、味噌で煮る、焼いて漬ける、揚げて漬ける、それでも残ったら焼いて冷凍しておけば、朝食にチンとすればいい。
一人暮らしの食材選びは、基本的に「保存」できるかどうかにかかっているのだ。

さばき始めて気がついた。
内臓から出てきたのは何匹分かわからないくらいの魚の骨。
丸々ふとっているのは、こいつの食べ過ぎによる腹のでっぱりのせいだった。

3枚におろしてみると、以外に小さく身も薄い。そういえば鯖の旬は秋だっけ。今は産卵後の、身が痩せている時期だった。鯖の生き腐れという言葉もあるなあ。
つくづく、季節のない街に住んでいる侘しさを実感したことだった。

結局、壮大な予定は変更。
ネギとしょうがで味噌煮となり、翌日の朝食には完食された。
鯖くん、また秋に会いましょう。
Bon voyage!

2006.8.19



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