台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

お好み焼き

昨日買ったキャベツを使わなければ。

そんな思いで目が覚めた。
いや、むりやり目を覚ましたと言ったほうが正しい。

昨日は仕事の帰りに新宿で飲んでしまい、帰宅したのは朝だった。
夜型人間にどっぷりつかっている私には、早朝の風景などに出会う機会など、ここ数年来、訪れたことはなかった。

新宿の飲み屋で、5時前までねばった末、ラーメンを食べて電車に乗った次の瞬間、みごとな朝焼けが見えた。
そういえば、4階にあるビルの中の飲み屋でも、足下からしんしんと寒さが伝わってきていた。
今朝はそうとう冷えているらしい。
電車の窓から、ときおり、菜園らしきものが見える。
久しぶりに、霜が降りている土を見たような気がする。

子供の頃は、冬はもっと寒くって、温暖な岡山でも、年に一度は雪だるまがつくれるくらいの雪が降っていた。
朝、布団の中でぐずぐずしている私を、「起きてみい!雪が降っとるよ!」と、母が起こしに来たものだ。

目が覚めたのは正午前。
今日はレッスンがあるので、少し忙しい。
お風呂に入って、発生練習をして、お化粧もしなければ。

こんなとき、ぴったりなのが、お好み焼きである。

高校生の頃、学校帰りに立ち寄っていたお好み焼きやがある。
いつもは小銭をにぎりしめて、うどん屋に行くのだが、おこずかいをもらった日には、お好み焼きやに行くのだ。
高校の頃というと笑われそうだが、友達も、みんなちょっとしかおこずかいをもらっていなかった。
アルバイトは不良のやることだった。
ちょっと贅沢な楽しみ。
そしてでっぷり太ったおばちゃんが、私たちの気持ちを、さらに豊かにさせてくれた。

上京してから、この店のお好み焼きを、何とかして再現してみたいと思考錯誤した結果、私は自称「お好み焼き」名人となった。

それは大阪風でもなく、広島風でもない。
卵焼きのようにやわらかく仕上がったときは、ひとりほくそえんでしまう。
今回は、是非これを伝授してみたいと思う。

具はキャベツと、しょうが、あとはベーコンやら豚肉やら、サツマアゲでもちくわでも、冷蔵庫にあるものを使えばいい。
なければキャベツだけでもいいのだ。
むしろそのほうが、成功率は高い。

さて、生地のほうだが、私はお好み焼き専用の粉を使うことが多い。
最近は天かすやイカなどが、あらかじめ混入されているものもあり、具がそろっていないときには便利だろう。

問題はその粉を、溶くときの水の量だ。
袋に書いてある分量よりも、うんとゆるく溶く。
一人前として、卵1個に粉を3分の1カップ、水を2分の1カップほど、ボウルにいれて泡立て器で混ぜる。
そこにしょうがをミジンにしたもの、キャベツをミジンにしたもの、その他の具を混ぜて焼く。
もちろん天かすだの、さくらえびだの、あれば入れるがよい。
だが、なくてもおいしいお好み焼きができるのだ。
むしろ、口当たりのよいお好み焼きは、あまりごちゃごちゃと具がはいっていないほうがよい。

さて、フライパンに油をさし、ボウルの中身を全部あける。
そこで、ゆるく溶いた粉のこと、フライパンいっぱいにひろがっていくだろう。
そこですかさず、フライパンをまんべんなくまわすようにすると、真ん中に具が乗った、クレープの様相となる。
火は強火。
手早く用済みのボウルを洗っているうちに、ふちの方が浮いてくる。
もちろん火がとおりすぎてはいけない。

「ここぞ!」という頃、フライ返しなどを使って、まわりのクレープ状の部分を真ん中あたりに、たたんでゆくのだ。
たたみおえたら、エイヤっと裏返す。
ここで、粉がゆるすぎると、うまくひっくり返せない場合もあるが、また粉が固すぎても、クレープ状にはひろがらない。
その見極めが難しいのだが、何度もやってみることだ。
やっと固まる、くらいのほうが、ふわふわに仕上がる。

裏返したら、火を弱火にして、ふたをして、化粧でもしていよう。
顔ができあがった頃、ふちのほうが盛り上がって、ふわふわに焼けているだろう。

これに、ソースやらかつおぶしやら青のりやらをかけて食べる。
もちろんマヨネーズやからしなどをのせてもよいが、私は今日は、ナンプラーとタバスコを少々かけてみた。
粉の量が少ないので、お好み焼きにしてはあっさりしているためであるが、これはよほどのエスニック好きの人か、好奇心旺盛の人にでないとすすめない。



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