台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

エビグラタン

なんだか急にグラタンが食べたくなった。
グラタンは、ソース味についで、なぜか急に食べたくなるものの一つだ。
普段あまり口にしないせいかもしれない。

グラタンは懐かしい母の味だ。子供の頃、母がよく作ってくれたのはエビマカロニグラタン。メインディッシュの時は大きなグラタン皿で、副菜の時は小さな薄いグラタン皿で作ってくれた。パン粉がカリカリと楽しく、クリーミーで嬉しい献立の一つであった。

一時、この母のグラタンを再現しようといろいろと試したことがある。
なかなか母の味にならないので母に訊いてみたところ、「忘れた」とのこと。
もう子供達も巣立って、あまりグラタンなど作らなくなったのだろう。そういえばいつの頃からか、母はクリーム系のものが苦手になっている。牛乳もあまり好きではなくなったらしい。トシなりの味覚なんだろうと思う。

それでもなんとか訊きだしたところ、母の答えはごく普通の作り方だった。結局は何も加えないノーマルなものが一番美味しいということなのだろう。

薄切りにした玉ねぎをバターで炒める。これに小麦粉を加えてさらに炒め、牛乳を少しずつ加えていく。牛乳はあたためなどしなくてもいい。少しずつ加えてはかき混ぜさえすればダマにならない。適当なとろみがついたらスープの素、塩、胡椒などで味付けする。
エビを加えるとエビグラタン、さらにマカロニを入れるとエビマカロニグラタン、さらにほうれん草を加えるとエビマカロニほうれん草グラタンとなる。
加えるものは何でもいいのだから冷蔵庫の残り物を整理するときにもいいだろう。
これに粉チーズやパン粉をふってオーブンで焼けば完成だ。

問題はバターと小麦粉の量だが、これは同量が目安。
一人前につき、大さじ1〜2くらいだろうが、それこそメインかサイドかによって調節すればよいだろう。

牛乳の代わりに水を少しずつ加えてのばし、最後に牛乳を加えるとスープになるから、じゃがいもを加えるとポテトスープ、コーンの缶詰を加えるとコーンスープ、カリフラワーだってベーコンだって、ホカホカ嬉しいスープができる。

簡単といえば簡単だが、作ってみるとけっこう手間ヒマかかるものなのだ。ほんの副菜として小さな皿にグラタンを作ってくれた母に、グラタンを作る度に感謝する。
グラタンとコーンスープが、おふくろの味というわけだ。

なぜか時々急に食べたくなるのは、郷愁が手伝っているせいなのかもしれない。


(2007.3.20)



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