台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

真夏の鍋

佐倉の美術館に行った。
詳細は「日々の出来事」を参照してもらえばわかるが、とにかく冷えた。

まったくこの冷房には悩まされる。
建物の中に入っても、電車に乗っても、バスに乗っても冷やされる。毛皮のコートでも持ち歩けというのか。寒さとの戦いは、むしろ夏のほうが激しい。

一体いつからこんなに冷房を効かせるようになったのだろう。
子供の頃は、学校にだって冷房などなかった。夏は暑いのが普通で、汗をかきながら勉強も運動もした。自転車で帰宅すると扇風機で体を冷やし、麦茶やスイカで水分を摂った。
夕方になると少し涼しい風が吹いて、やっとひと息ついたものだ。

温暖化が問題になって久しいが、この国がまず手をつけるべきは冷暖房だと思う。
ビルというビルの室外機から熱風が吹き出し、都市にはヘンな暑さが充満している。

もういいかげんに、ネクタイとスーツの人に温度を合わせるのは止めてほしいものだ。
ずいぶん前には省エネ対策として「半そでスーツ」なるものが作られたが、いっそのこと、本州でもアロハを正装とするくらいの改革をしなければ未来はない。
まず公共の施設から、冷暖房の常識を変えていくべきだ。

さて、真夏の小旅行から帰宅。手首の骨がまだ冷えている。
ここは鍋だ。しかもキムチ鍋。

数日前、スーパーで大根を購入した。ところがこの大根、思っていた味と全く違った。
益子から宅配している野菜には旬のものしか入ってこない。夏に大根を買ったのが間違いだった。
こんな時は漬けてみようと、「キムチの素」なるものを買っていた。カクテキを作るつもりだ。

久しぶりに土鍋の登場。キムチの素を入れる。ダシと味噌。豆板醤。すりゴマも加えて大根、ネギ、豆腐、豚肉で汗をかきながら真夏の鍋。やっと冷えから解放された。

それにしても、大根もネギも、春菊だって冬が旬。
甘みもやわらかさも充分な野菜だからこそ美味い鍋になるのだ。
夏に大根の鍋など食べなくていいようになってほしいと思う。

残った大根は塩を振り、重しをして一晩置く。水分を捨てたら「キムチの素」で和える。
思い切り辛くしたほうが、夏のご飯には合う。なにしろ大根の味をゴマカセる。

2006.8.16



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