台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

チキンカツ

今日は、仕事場の友達が二人、泊まりにくる。
二人とも役者、独身、一人暮し。
家族の料理には飢えているとみた。
普段、ふるわない私の株を上げる、絶好のチャンスだ。

私はこうゆう場合、異常なくらいにはりきってしまう。
本来なら、男性に対して使うべきエネルギーなのであるが、女友達が来るだけでウキウキしてしまう自分にハッと気がついたりすると、悲しい。
そっと涙をふいたりする。

ともあれ、メニューを考えることにした。
鶏肉が冷蔵庫にある。
メインは鶏肉にしよう。
ソテーもいい。
蒸して野菜と和えるのもいい。
唐揚げもいい。
台所に立つ時間を減らすために、南蛮漬けにしておいてもいいかもしれない。
いろいろ考えて、カツにすることにした。
冷蔵庫の中には、買い置きの野菜がいろいろある。
メインは少しボリュームがあるものがいいだろう。

もうお気づきの方もあるかもしれない。
私の日常の料理は、野菜料理が中心なのだ。
べつにベジタリアンではないのだが、買い物にいくと、野菜ばかり買い込んでしまう。
理由は、「魚や肉は高いから」。
スーパーの片隅でも、そっと涙をふいたりしているのだ。

そのてん、野菜なら、季節のものは安いし、ニンジンやじゃがいもや玉ねぎなどは、季節を問わず安売りをしている。
おまけに保存しておけるものも多い。
ただ、トマトやきゅうりなどは、冬には出回らないことにしてくれればいいのに、と思う。
そうすれば、夏にも、もっとおいしいトマトが安く食べられるはずだ。

エンドウを茹でておく。
短冊に切ったうどと、マヨネーズで和える。
トマトはくしに切って、クレソンとドレッシングで和える。
これで2品できた。

じゃがいもは水にさらしておく。
茹でて、あつあつのところを、オイルに漬けてあるブルーチーズで和えるのだ。
デパートのチーズ売場で、ビン入りで売っている。
そのままパンにぬってもいいし、チーズ好きにはたまらない味だ。
ブルーチーズは、私の好物のひとつ。
たまに清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入することもあるが、3日ともたないので、がっかりしたりする。
このオイル漬けなら、むやみになめたりすることもなくてお得だ。
じゃがいもと和えるだけでも、とても手の込んだような複雑な味になる。
これで3品。

あとは、以前に漬けておいたピクルスを出して、パンでもそえれば、充分だろう。

さて、鳥肉だが、皮のほうからフォークでぶつぶつとつついておく。
塩コショーしたら、粒マスタードを皮のついていないほうに、たっぷり塗りつける。
もも肉一枚に対して、さあ大匙二杯ほどだろうか。
あとは粉と溶き卵とパン粉を順にまぶして、揚げるだけ。

前に紹介したトマトソースが冷凍してあったので、このソースをそえて出したが、なければウスターソースとケチャップを混ぜたものでもいいし、レモンをそえるだけでもいいのである。

この、マスタードを使う方法は、トンカツをつくるときも同じようにしてつくれる。
粒のマスタードは、たくさん使ってもツンとくることはない。
揚げると、いい香りが残り、さっぱりと食べられるのだ。

現に、このトンカツを私の家で食べた男性はみんなおいしいと言ってくれた。
ただし、その男達とは別れてしまったので、これを食べさせたからといって、恋にカツとはかぎらない。



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