台所に立つことの動機は、やはり「お腹がすいた」、「おいしいものが食べたい」、それで十分なのだ。シャンソン歌手「藤原素子」が綴る、日々の、普通の食卓のレシピ

貧すれど鈍せず

タイカレー

未だ訪れたことのない国のことを、想像するのは楽しいものである。

私の場合、くいしんぼうの為か、異国を想像するのはたいていの場合、食べ物から入ることが多い。

旅行記を読んでも、一番熱中するのは食事に関してのことだ。

まったくの予備知識のないままに旅行をするのも、先入観にとらわれることなく、旅を楽しむことができるもの。
だが、私はタイに限っては、そうはいかない。

タイには、この数年来、訪れる機会があったにもかかわらず、一度も実現していないのだが、その度に私は、タイについて調べたり、旅行記を読み漁ったりしている。
そうこうしているうちに、タイ料理にハマってしまったのである。

料理に関して凝り性なのは、自他共に認めるところだ。
私は、スーパーだろうが、デパートだろうが、まず、輸入食品売り場に行く。
以前に比べて、ずいぶん便利になったものだ。
そこには、各国の調味料だの、食材が並んでいる。
なかでもここ数年は、タイに関するものが、圧倒的に増えてきたようだ。

タイと言えば、まず思い浮かべる料理はなんだろうか。
トムヤムクンか、グリーンカレーか。
いずれ欠かせないのが、パクチーであろう。

パクチーと言えば、これこそ賛否をわける、最たるもののひとつではないだろうか。
香菜とも、コリアンダーとも呼ばれるこのハーブは、一度食べてその虜になる人と、二度と出会いたくないと思う人と、はっきりしている。
そのせいか、タイ料理にハマっているというと、賛同してくれるひとと、無反応なひとのどちらかになってしまう。
「タイ料理を食べに行こう」と、うかつに誘えないひとがいるのも事実である。

やはりここは、自宅で作って食べるのがよろしい。
体調に合わせて好みの辛さに調整できるのも、嬉しいものである。
今は梅雨の真っ只中でもある。
タイ料理の爽やかな辛さでこの季節を乗り切ってしまおう。

タイのカレーは、ペーストさえあれば至極簡単にできる。
その他用意するものは、ココナッツミルク。
これを鍋に入れて温め、ペーストを加えて溶かした後、一口大に切った鶏肉を入れて火を通す。
水を加えれば、もう出来上がったようなものだ。
冷蔵庫にある残り野菜をぶちこんで、砂糖とナンプラーで味を整えるだけで、おわり。

鶏肉の変わりに海老でも美味しくできるだろう。
野菜は、さあ、タケノコだとかフクロダケだとか入っていたようだが、ニンジンや大根やナス、シメジ、ピーマン、なんでもいいのである。

もちろん、パクチーやバジル、バイマックルー、レモングラスなど、あれば加えてもよいが、なに、なくったって、立派にタイの味になってしまうのだから、気にしないことだ。
私など、あれがない、これが必要と、材料を集めるだけでクタクタになってしまう。

日常の惣菜に必要なものは、ちょっとした冒険心、だけなのである。



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