不定期更新!?藤原素子の日記帳です。

日々の出来事 〜Diary〜

#711 ワット・プーへの道 その2
2012年02月23日(木)03時17分
ところでワット・プーそのものも素晴らしかったが、パクセーから、いよいよワット・プーまでの最終行程、ボートとトゥクトゥクでの道のりも、実に楽しいものだった。

ワット・プーのあるチャムパサック県は、5世紀頃にクメール人が拠点を置いた地方なんだそうだ。
クメールといえば、後にアンコール王朝を築いた文明。土埃が舞うガタガタ道を、ひたすら走るトゥクトゥクにしがみつきながら道の両側を見ると、なるほど意外に栄えている町のようだ。
ところどころにゲストハウスや小さな店がある他は、ずっと住居が連なる。コンクリート高床式のもあれば、竹や木で作られた家もある。風通しが良さそうなウチ。
その周りには、小さな畑や、積んである薪、荷物を運ぶ人、立ち話をする人、腰掛けて豆をむく人。ハンモックで昼寝をする人々が見うけられる。やがて陽が暮れて夜が来ると、一帯真っ暗になるのだろう。昼の間の仕事を、それぞれ進めているのか。
こうしたトゥクトゥクからの眺めは、まるで永遠に続く絵巻物のよう。さらにその間を、裸足の子供たちが、牛が、犬が、鶏が、縦横無尽に歩く。ほんの数十分で、彼らの一日の模様がわかるような光景だ。
いや、まるでこれは人間の生を、コマ送りの映像で見ているのではないか。
この世に生まれ、食べ、働き、眠り、やがて老いて土に戻るという、終わらない営みすべてが、この道にあるような錯覚におちいる。

そして帰路のボート。
20人ほど乗れる細長いボートは乗客もまばらだ。銘々くつろいで、メコン河に身をゆだねる。風が心地よく、午後の太陽が、キラキラと川面に反射する。心地よい揺れが、次第に眠気を誘う。
眠りから覚めてときおり目を開けると、なだらかに隆起する山々と茂る森が、河沿いに延々と続いているのが見える。ふたたび目を閉じて、しばらくウトウトしても、雄大な眺めはいつまでも続く。
と・・・。ゆらゆらと波に揺られながら、この豊かなメコンに、次第になにもかも流してしまえそうな気がしてくる。
悲しい出来事も、傷ついた心も、生への苦しみ・・・背負った罪・・・あらゆるものを、すべて洗い流してくれそうな大いなる流れ。どこまでもおだやかで、永遠に続くメコン河が、いつしか私の心を空っぽにしてくれた。久しぶりに、やっと深い眠りについたような気持ちになったものだ。
この先、きっと何度でもあの河の流れを思い起こすのだろう。そしてその度に、自分が空っぽになれるような気がする。
また、歩いていけそうだ。


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