日々の出来事 〜Diary〜
#659 大切な記憶 2011年09月25日(日)03時09分
知人とよもやま話をしているうち、歌のバイトをしていた銀座の店のマスターのことを思い出した。 すでに引退していた彼のお宅に、週に1度ほど伺って、掃除や手伝いをしていたことがある。たしか彼が90歳から94歳くらいまでの間だったと思う。
松坂屋で待ち合わせて、銀座アスターで昼食。その後バスで豊洲まで行く。 掃除といっても、1時間ほどで終わるので、私はマッサージ機でくつろいだり、二人でテレビの時代劇や相撲を見たりして過ごす。夕方になると、門前仲町のしゃぶしゃぶ屋か、築地のすし屋で食事。マスターは燗酒を1本。私は生ビール。彼のタクシーを見送って、私は仕事へ向う。 外出する時は、決まってスーツ。ネクタイと帽子。クローゼットは、昔銀座で仕立てたスーツがいっぱい。ポマードの香りをまとって、さっそうと銀座を歩く姿は、モダンボーイそのものだった。
そのパターンは、まったく変わらず繰り返されたものだが、ある時から、時々待ち合わせを忘れることがあった。 ほどなくして、姪御さんが現れた。後の面倒を見ると言って彼を引き取っていった。 混乱するといけないので、当分は連絡しないようにしてほしいとのこと。そのうち事態が好転するかもしれない。いずれ何かあったら連絡するとのことだったが、その後なんの沙汰もない。生きているなら100歳に近い頃だと思う。
貧しくも頑張っている役者達を、ずっと支えて、励ましてきた人。芸術に携わる人間を、本当に尊重し、援助し続けた人。 平成も23年になった。あんな人は、彼を境に日本にはいなくなったと思う。
「命がけじゃないと、恋とは言えないよ」 いつも、言っていたものである。
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