日々の出来事 〜Diary〜
#634 私の記憶を蘇らせたものは(プルースト風に) 2011年08月03日(水)01時46分
遠距離恋愛をしたことがあった。それはずいぶん苦しいことではあったものの、やがて慣れた。会えない時間を、距離で割ると、ゼロになる。それにほんの少しのセンチメンタルな演出を加えただけで、完璧な恋となることを発見したからだった。そしてそれは、永遠に続いていくかに見えたのだった。恋は、自分の世界を脅かすものでもなく、不安にさせるものでもない。私たちは世界中の望むところで会うことができた。何も欲することはなく、ただ、過ごす時間を楽しむことが、恋そのものなのだと。 今思い返すと、過ぎ行く景色を、あえて記憶しないでいたのだと思う。私の記憶は常に曖昧で、その場所を訪れて、やっと以前来たことがあるのを思い出すのが毎度なのであった。それは自分を護ることでもあり、一方で、この恋を手放す日が来ることを予測していたからなのであったろう。といってもそれはごく潜在的な、無意識のうちの本能であり、完全な恋愛には終わりがないと、信じていたことも本当である。 それより何よりも私が懼れたのは、自分が取るに足らない人間だということが発覚することだった。挫折と後悔というのは努力を重ねた人が発する言葉である。それ以前の私は、世の中に背を向けて、ただ拗ねてみたかっただけなのだろう。世の中は、ちっぽけなゴミになど構うことなく過ぎてゆくものだ。誰にも見向きもされない年月は、2年や3年どころではない。そんなコンプレックスが、今でも私の中に根強くとぐろを巻いていて、お天道様の下を堂々と歩いている人などに会うと、ただただ畏れいってしまうのである。 紅茶に浸したマドレーヌは、忘れていた傷みも、甘美な記憶までも、蘇らせたようだ。
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