日々の出来事 〜Diary〜
#616 ゲンスブールと女たち 2011年06月25日(土)00時18分
フランス映画が苦手だった。 大学のフランス語の教師はフランス映画狂で、フランス映画の感想文を書けば単位をくれるというので無理やり観たというトラウマのせいもある。(何を観たかも忘れてしまった) 日仏学院で再度フランス語に挑戦するも、あえなく挫折。一緒のクラスで知り合った女性は、程なく恋人のいるパリへ行ってしまった。 フランス語とフランス映画は、私の鬼門だった。 そんな私が、シャンソンを歌っている。皮肉なものだ。
セルジュ・ゲンズブール。 『リラの門の切符切り』が彼のデビュー。ブリジット・バルドーやジェーン・バーキンとのスキャンダラスな私生活と、過激な作品で世間を賑わせた。 無精髭と緩めたネクタイ。酒とジタンと女・・・。「ちょいワルオヤジ」の金字塔のような存在だが、その才能は計り知れない。彼の生き方すべてが、独自の美意識で構築されている。「ちょい」ではすまないワルであり、一方で、ユダヤ人と醜男のコンプレックスを抱えたデリケートな人間でもあった。
『ゲンスブールと女たち』というタイトルの通り、その生き様を描き出しているにも関わらず、観終わった後の印象は、どこかファンタジックだ。 バンドデシネ(フランス中心の漫画)の作家の監督らしく、岐路において度々現れる奇怪なゲンズブール自身の「分身」が、不思議な説得力をもってストーリーを運んでゆく。 映画館を出るとき、この映画自身が、メッセージを何も発信していないことに気付く。 映画にありがちな、説教やお涙頂戴もいっさい描かれていない。 ゲンズブールの詩と、歌だけが、心に残る。 不思議なカラクリに、気持ちよくハメられてしまった。
フランス映画とシャンソン、ゲンズブール。 苦手だったものの焦点が、だんだんと合ってきたような気持ち。
パンフレットによると、監督のジョアン・スファールのコンテには、ジュリエット・グレコが、ベルナール・ビュフェの絵についてゲンズブールに訊ねるシーンがある。焦点が、さらに合ってしまうのである。
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