日々の出来事 〜Diary〜
#321 火宅の人 2008年06月02日(月)00時17分
無人島に一冊だけ本を持って行っていいとしたら、間違いなく壇一雄の「火宅の人」を持っていく。事実20年前から、もう何十回読み返したかわからない。 壇一雄の著書は数あるが、中でも「火宅の人」は傑作だ。 日常に倦怠した時、本番前で精神的に詰まっている時、のんびり開放している時、どんな時でも、読めば一気に非日常の世界を旅することが出来る。すべてを超越してしまうのだ。 読み返すたびに新しい発見がある。私自身が経験した出来事が、そのたびに新しくこの本に投影されていくような気持ちになる。例えば恋愛だ。例えば旅だ。その軌跡を追いかけているような気がしてくる。もうほとんど、私にとってバイブルに近い。 この人の著書には、料理エッセイも多い。こちらも何十回となく読み返すほどだ。 今になると見聞きもし、口にする機会もあるが、当時の人は何が何だかわからなかったものも多いだろう。ハモンセラーノ、パエリア、スメルガスボード、小籠包、ビビンバ・・・いや、日本国内の食べ物だって、ホヤ、スグキ、ニロギ、ママカリ・・・今では容易に手に入らなくなったダゴムギやブリコのことを書いている箇所に読み入っては、想像の楽園に旅することが出来る。 羊の肉の美味しさ、改良しないリンゴの滋味、その土地土地の雑多なものを食べ尽くしてみたい願望など、食に関しての影響も多大だ。 数年前に読み返した時、思わず号泣してしまった一節を引用する。今また、感動で魂が震えてしまうのである。
人間とは何だ?いや、愛とは何だ?おそらく、女のたった一つの欠陥は、愛の寂寞を知らず、愛の誓いに餓えていることではないか。もしどこかに、真正の愛というものがあるとするならば、過ぎつつあるお互の時間の寂寞と悲哀を頒ち合うものでなければならないだろう。(「火宅の人」下巻より)
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